チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化
公開日:
:
最終更新日:2017/12/11
オススメ書籍
伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』がついに文庫化。「米ソ冷戦に翻弄された天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯」でも紹介したように、昨年NHKで放送されたドキュメント「天才ボビー・フィッシャーの闘い~チェス盤上の米ソ冷戦~」は実に素晴らしい作品となっており、大きな話題となったのはまだ記憶に新しい。
13歳のあどけない顔をした少年が放ったクィーンの捨て駒は、その瞬間何が起こったのか、世界中の誰にも分からなかった。しかし次の刹那に明らかとなったのは、フィッシャーだけに見えていた世界であり、それはあまりにも美しく創造的であり、チェス史上最も完璧と言えるほどの棋譜が誕生した場面でもあった。しかしその後は、米ソ冷戦の時代、両国の間に挟まれ逃亡生活を余儀なくされ、再びその姿を現したのは、日本の成田空港で身柄を拘束された時だった。そんな波瀾万丈の人生を描いた傑作ノンフィクション『完全なるチェス』が、おもしろくないわけないのである。NHKのドキュメントを観た方はもちろん、そうでない人にも自信をもっておすすめしたい一冊だ。
ちなみに、日本が誇る最強の将棋棋士・羽生善治は、チェスの腕前も日本最高峰であることで知られている。先日のニュースでも「将棋の羽生善治がチェス元世界王者とチェス対決」と話題なったことはまだ記憶に新しい。そんな羽生が、日本で拘束されたボビー・フィッシャーの釈放を求めて政治的な発言までしたことは、それだけこのチェス棋士に対して畏敬の念を持っていたことの現れであろう。本書『完全なるチェス』に対し、羽生は次のように書いている。羽生の言う「チェス界のモーツァルト」の生き様を、ぜひとも感じ取ってほしい一冊なのである。
もし、「ボビー・フィッシャーはどんな人?」と聞かれたら、「チェスの世界のモーツァルト」と私は答えます。モーツァルトとの共通点は3つあります。
- 誰もが認める“天才”であること
- その天才性を簡単に知ることが出来ること(音楽を深く勉強しなくてもモーツァルトの素晴らしさを理解できるように、フィッシャーのチェスもルールが解ればその力強い指しまわしに魅了されるはずです)
- それとは別の部分に大きなギャップがあること
Amazon Campaign

関連記事
-
-
事実は小説より奇なり|大人が味わうノンフィクション
先日おすすめした『10代のための読書地図』と同じブックガイドでありながら、そのテイストが大幅に異なる
-
-
数学者たちの異常な日常|世にも美しき最後の秘境
以前に「あたなの知らない、世にも美しき数学者たちの日常」でも紹介した、二宮敦人著『世にも美しき数学者
-
-
華麗な王者モハメド・アリと、そのアリになれなかった男|沢木耕太郎の名著『敗れざる者たち』と『一瞬の夏』を再読する
2016年6月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリが74歳の人生に幕を閉
-
-
将棋棋士初の栄冠|『Number MVP賞』は 藤井聡太二冠に決定
先日は以下のエントリでも書いたように、2020年は間違いなく藤井聡太の一年でもあり、将棋棋士がアスリ
-
-
クラフトビール業界ナンバーワン・ヤッホーブルーイング自慢のIPA「インドの青鬼」の苦みが最高に旨い
今年もまたビールが旨い季節がやって来た。もちろん、クラフトビール飲んでますよね?数年前から盛り上がり
-
-
マラソンランナー大迫傑という生き方|東京五輪で引退する「愚か者」
オリンピック最終日に開催され、最も注目されるともいってよい種目が、男子マラソンである。そして今年の東
-
-
ワールドカップ決勝へ|ラグビー名将エディー・ジョーンズの勝負哲学
ラグビー・ワールドカップが面白い。まったくもってニワカなんですが、ルールが分かるとラグビーってこんな
-
-
赤瀬川原平『新解さんの謎』と『辞書になった男』:いま日本で最も売れている「新明解国語辞典」の誕生秘話
これまで何度か、各種おすすめ国語辞典のそれぞれの個性について書いてきたが、その中でも最も「個性的」な
-
-
ニューノーマルなバレンタイン|恋と愛とチョコレートの経済学
バレンタインな週末がやってきましたね。諸兄の皆様方に置かれましては、ニューノーマルな暮らしの中におい
-
-
Kindle電子書籍で手に汗握って読む、箱根駅伝をより面白くするこの3冊
いまや国民的イベントにまで人気が拡大した、正月の風物詩・箱根駅伝。僕も含めて毎年楽しみにしている人は