サッカー・データ革命の時代に読んでおくべきこの5冊
本記事の目次
データ革命が加速する世界最先端の現代サッカー
「ワールドカップの閉幕、そしてデータドリブン・サッカーの開幕」で紹介したように、今回のサッカーW杯ブラジル大会を制したドイツチームを支えたのがビッグ・データ分析だったというのは大変に象徴的だと思う。ナショナルチームレベルでサッカーのデータ分析がこれほど注目されたのは初めてかも知れないが、実際のところ、各クラブチームではもっと先端的な取り組みが進められている。
その好例がイングランドのプレミアリーグだ。「英国プレミア・リーグと、リバプールのData-driven football」で紹介したように、マンチェスター・シティやリバプールといったチームが、データ分析に力を入れている最有力のチームであり、昨年リーグ2位と大躍進したリバプールにとっては特に、ようやくこれまでの取り組みの成果が出てきたといったところではないだろうか。。一方で、日本のJリーグに目を転じれば、いま最も注目すべきは間違いなく横浜マリノスであろう。
今年5月には、マンチェスター・シティーを傘下に持つシティー・フットボール・グループが横浜F・マリノスに19.95%出資(日経新聞)し、本格的な提携がスタートした。そしてその背景には、週刊ダイヤモンドの関連記事が報じているが、上述したように、マンチェスター・シティが持つ豊富なデータとその分析の蓄積があるのだ。
いずれにしろ、W杯ドイツ優勝を機に、サッカーの試合に対するデータ活用が今後一気に加速すると思われる。そんな背景を整理し、データ分析で何ができるのかを理解するには、以下でおすすめする関連書がぴったりだ。どれもエキサイティングに読めるものとして、サッカーを始めとするスポーツファン、そしてデータギークに一読をすすめしたい。
「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理
本書は、ジャーナリストのクーパーと、ミシガン大学のシマンスキー教授による著作。原題 “Soccernomics” が十二分に表しているように、サッカーを経済学的に分析した画期的な一冊であり、まずはここから読み始めるのが王道だろう。また、「なぜネイマールは右へ蹴ったのか?」でも紹介したように、クーパーはその後もフィナンシャル・タイムズに度々サッカーの話題を寄稿しており、そのいずれも興味深い。ぜひ今後もウォッチしてほしい。
サッカー・データ革命─ロングボールは時代遅れか
本書は、サッカーのデータ分析に関する最新の一冊。原題 “The Numbers Game: Why Everything You Know About Soccer Is Wrong” が明瞭に伝えるメッセージは、我々の直感は間違える、だからデータ分析が必要なんだ、ということである。例えば、サッカーの試合でコーナーキックの数の多さは、そのチームが優勢な状況にある証だ、と我々は考えがちである。しかし本当にそうなのか?ということを著者はデータから実証していくのだ。
本書の特徴として挙げられるのが、第一に、ポアソン分布、ベルヌーイの定理、ベイズ統計といった、統計学のコンセプトを使ってデータの見方を解説している点であろう。そして第二に、American Economic Review や、Quarterly Journal of Economics、Journal of Political Economy といった経済学のトップジャーナルからの引用が多いこと。著者が原論文に当たって議論している点に好感が持てる。そして第三に、上記コーナーキックの話題に以外にも非常に多岐にわたるトピックをカバーしていることであろう。例えば個人的には、サッカーの賭けが他のスポーツよりも著しく難しい理由を説明するくだり等、大変興味深く読んだ。ワールドカップ等も含めて最新のネタで面白く、イチオシの一冊である。
オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く
本書は、シカゴ大学のモスコウィッツ教授等による一冊。以前にも紹介したものだが、サッカー以外にも様々なスポーツを話題としており興味深い。例えば、ホームチームは本当に有利なのか、バスケでシュートが連続して決まる「ホットハンド」は本当に存在するのか、等々といったテーマに、データ分析で鋭く切り込む。以下は関連エントリ。
マネー・ボール
本書も、もう何度も紹介してきた名作だ。米国メジャーリーグの戦略を大きく変えたこの「マネー・ボール革命」こそが、今のサッカー界におけるデータ分析のトレンドを形成している。その他スポーツにおいても現在盛んにデータ活用が進められているが、それらも全てこの一冊に凝縮されたアイデアから始まっていると言ってよい。もしも未読なら、ぜひこの機会にこの一冊から読み始めてほしい。
シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」
本書は、現代の「天才的予測屋」ネイト・シルバーが著した一冊。米国大統領選挙で名を挙げた彼だが、その前から取り組んでいたスポーツ分析こそが本業とも言える。本書ではスポーツを初め、政治から天気そして株価予想まで、ありとあらゆる世界の予想・予測を追いかけたものだ。シルバーをもってしても、今回のサッカーW杯の優勝を当てることはできなかったわけだが、それは逆に言うと、サッカーがそれだけ予想困難な(だからこそ面白い)スポーツであることの証左なのかも知れない。
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