2023年第99回箱根駅伝・記憶に残るが記録に残らない激走|関東学連・新田颯の名勝負
今年の箱根駅伝は、駒沢大学の三冠達成にくわえ、古豪・中央大学の復活、そして東京国際大学ヴィンセントの圧巻の区間新記録樹立など、おおいに正月を盛り上げたと言えるだろう。僕自身もしっかり丸二日間、テレビにかじりついたように見てしまい、いまどきにしては珍しいお茶の間で家族みんなを引き付ける稀有なコンテンツである。
とくに往路はじつに面白いレース運びだった。花の二区はエースが勢ぞろいし、駒沢大学・田沢、青山学院・近藤、中央大学・吉居の三つ巴のつばぜり合いは、近年まれにみる熱戦にして激戦として、見るもの全てにとって手に汗握る展開となった。そして、そんな名勝負となった二区につなげたのが、やはり記憶に残る競走となった第一区だ。
スタートから強豪校同士が牽制し合い、予想以上のスローペースが続く中、関東学生連合の新田が積極果敢にひとり抜け出した。いずれバレルだろうという予想とは裏腹に、その後も長いこと独走状態を築き、このままゴールするのではと期待されるほどの素晴らしい走りを見せたのだ。本選に出場できない選手の寄せ集めに過ぎないと考えられているこの学生連合で、かつ新設の育英大学という駅伝界では無名の大学の属する新田選手が「ここで宣伝してやろうと」思い切り、じつに素晴らしい力走を見せたのだからこんなに記憶に残る一区も滅多にない。
(Yahoo!ニュース)1区で関東学生連合の育英大・新田颯(4年)が、大逃げを打って盛り上げた。序盤から勢いよく飛び出してトップを独走。最後は失速したものの、見せ場たっぷりの3位でたすきをつないだ。新設大学の無名ランナーが見せたスペクタクルな激走。快速馬「パンサラッサ」に重ねる人が相次ぐなど、ツイッターには関連ワードが続々とトレンド入りした。
さて、結果的には最終盤でかわされ惜しくも三位という結果に終わった新田選手だが、それでは果たしてあのときもう少し足がふんばれて、もしも一位でゴールしていたらどうなっていたのか?これは実況解説にあったとおり、関東学連はあくまでもオープン参加であるため、参考記録にしかならない、つまり正式記録には残らないである。しかし、あれだけわれわれの記憶に残る名勝負と熱戦と激走を見せてくれて、それでもなお記録には残らないということに対し、釈然としない気持ちを持つひとたちは多いことだろう。
そう、実はこの問題はすでに2017年に現実に起きてしまったことでもあるのだ。以前に「箱根駅伝「幻の区間賞」と関東学連チーム出場の是非」でも紹介したように、このときは東京国際大学の照井選手が区間賞に相当するタイムで走ったものの、関東学連チームに対する規定により参考記録扱いで「幻の区間賞」となったのである。
毎年、箱根駅伝は実に見せ場の多い競技だと思わされる。連覇か復権か。スーパールーキーの登場。山登りと山下りに降臨する神。区間記録と区間新の達成。タスキが繋がるか繰上出走を巡る一秒の勝負。シード権の獲得なるか。そうした数多くの話題のなかに、この関東学生連合の存在がある。そんな、いわば「敗者の寄せ集め」たちのチームは何を目標に頑張るのか、ひとりひとりのモチベーションの源泉は? こうしたスポーツマインドの本質に迫った傑作小説がこの、堂場瞬『チーム』なのである。2017年の「幻の区間賞」以来、じつに6年ぶりに大きな注目を浴びることになった関東学連チームという存在。そこに光を当てたのは、間違いなく今年の箱根第一区を力走した無名選手の新田だ。誰も予想しえなかった彼の活躍を称えると同時に、ふたたびこの名作『チーム』に関心が集まり、そして来年100回を迎える箱根駅伝の将来について、そしてこの学生連合というユニークな制度について、建設的な議論が再び始まることを期待したい。
箱根駅伝の出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。
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