リンクトインのデータに見る、アメリカの新卒採用と転職行動
雑誌WIREDの記事「アップルやグーグル、フェイスブックはどの大学の卒業生を採用しているのか」で紹介されているデータが興味深い。
ワシントン州に本社を置くマイクロソフトは、同州内のワシントン大学からの採用数が他の企業に比べると圧倒的に多い。同時に、カナダ最大のエンジニア学部をもつウォータールー大学から、600名の卒業生がマイクロソフトに入社している点にも注目だ。一方、グーグルは地元サンフランシスコのスタンフォード、カリフォルニア大学バークレー校の学生を多く採用している。マイクロソフトやグーグルに比べれば、アップルの人材採用はよりバランスがとれているといえるかもしれない。スタンフォード、サンノゼ州立大学、テキサス大学オースティン校などから、多くの人材を採用している。
このLinkedInのデータというのは実におもしろいのである。以前「リンクトインのチーフエコノミストは誰だ?」でも書いたように、個々人の転職活動がばっちりと記録されているのだ。しかもそれが簡単に可視化できてしまうのである。例えば、リンクトインにアカウントを作成し、ログインしてGoogle のページヘ行ってみると・・・。誰でも見ることができるのが以下のデータだ。
これを見ると、現グーグル社員の多くが実は前職ではマイクロソフトに勤務していたことが分かる。(もちろんリンクトインユーザーの内数ではあるのだが)それと同時に、グーグルから転出する社員の多くもマイクロソフトへと流れていく、というのが丸見えになっているのだ。どう、面白いでしょ?グーグルとマイクロソフトなんて、どちらかというと対極的な企業のように見えるのだけれども、人材の流出入という観点から見るとこの2社が極めて密接に結びつきあっている会社だというのが分かるだろう。
上記はグーグルを例にとったものだが、同じ人材移動のデータを、アマゾンやアップルにフェイスブック、そしてゴールドマン・サックスからGMやGEまで企業個別に見ることができる。各社それぞれに個性を見て取ることができ、とても興味深い。例えば現在、アメリカ学部生にとって人気就職先の一つである、教育NPOのティーチ・フォー・アメリカ(TFA)だが、その出身者の多くが、TFA勤務を経てグーグルに就職していく、なんていうことまで分かってしまうのだ。特にこれは、「TFAとレジュメ・ビルダー」で書いたように、「TFAを利用して履歴書をよくして、結局は大企業に就職していく」というTFA批判と関連する話であり、こうした人材の移動をリアルな数値データで見ることができるというのは、LinkedIn以外のデータでは考えられないことだろう。
今のところ、データの見せ方としては、「マラドーナとメッシ」でも紹介したように、フェイス・ブックのデータ・サイエンスチームが抜群にうまい。でも、保有しているデータそのものは、リンクトインの情報も間違いなくずば抜けて面白いものだと思う。これからもっと見せて欲しいものである。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
英国プレミア・リーグと、リバプールのData-driven football
今シーズンの英国サッカー「プレミア・リーグ」が、マンチェスター・シティの優勝で幕を閉じた。それを不思
-
-
戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術
女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッ
-
-
100年目の国勢調査|本日の締切おわすれなく
現在実施中の国勢調査は、5年に一度実施される最も重要な統計調査である。日本国内に住んでいるすべての人
-
-
アメリカ連邦最高裁、49年前の判断を覆す|今こそ憲法で読むアメリカ史
すでに日本においてもニュースや新聞を始めとする各種メディアで報道・解説されている通り、アメリカ連邦最
-
-
NHK戦争特番:日本とアメリカとその狭間で
毎年夏が来る度にテレビ各局、新聞各誌が特集する太平洋戦争と終戦。その中でも個人的に強烈に印象に残って
-
-
今年のクリスマスもまたアメリカ現代社会の象徴「メガチャーチ」を思い出す
今年もいよいよクリスマス。そしてこの時期、毎年のように思い出すのがアメリカのメガチャーチである。「現
-
-
イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「アメリカ史」のすすめ
以前にも紹介したことのある、「イェール大学出版局 リトル・ヒストリー」のシリーズ。いまのところ5冊が
-
-
昨年の米国で “the Most Well-Read City” に輝いたのはシアトル
昨年も「米国Amazon.com が公表する、アメリカとカナダの Most Well-Read Ci
-
-
愉しく美味しく走ろう!南魚沼グルメマラソンを応援してきた
本日のKindleセール商品は、『ウルトラマラソンマン 46時間ノンストップで320kmを走り抜いた
-
-
綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち
2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まって