辞書編纂者・飯間浩明の仕事の流儀プロフェッショナル
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先日NHKで再放送された「プロフェッショナル仕事の流儀」をご覧になっただろうか。「言葉の海で、心を編む」というサブタイトルで特集されたのが、辞書編纂者・飯間浩明である。
“辞書の神様の生まれ変わり”と評される、気鋭の辞書編纂(さん)者・飯間浩明(50)。“言葉ハンター”の異名を取り、街なかやSNSなどで日々生まれる言葉を集める。「黒歴史」「シズル」「鉄板」…時代を映す言葉の数々。その本質を、的確かつ端的に辞書を編む。言葉ひとつひとつに並々ならぬ愛情を注ぐ飯間。国語辞典の改訂に向け、8万語を超える言葉と一身に向き合う男の、知られざる熱き闘いの現場に密着!
日本を代表する国語辞典である『三省堂国語辞典』は、新語に強いことが大きな特徴となっている。その背景には、飯間のような編纂者たちが日夜町中に繰り出して拾い集めてきた、生まれたばかりの新しい日本語があるのだ。初代・編纂者の見坊豪紀が述べたように、辞書とは言葉を正す鑑であると同時に、言葉を写す鏡でもあるのだ。そして飯間は、辞書の「鏡」の面に並々ならぬ思い入れを持っている。つまり、それは間違った言葉遣いだと糾弾するのではなく、世相を反映しなるべく多くの言葉を生かしてあげたい、そういう思いなのだ。
とくに今回の番組「プロフェッショナル」で取り上げられていた事例が、「的を射る」と「的を得る」の使い方である。一般的には「的を射る」が正しく「得る」は誤用とされてきた。しかし飯間は、これだけ多くの人々が既に使っている「的を得る」という言葉遣いを誤用だと指摘し、言葉を死なせたくないと考える。なんとか生き残らせるために数々の文献にあたり、実は昔も使われていたという根拠を見つけ、そして三省堂国語辞典の第7版にはきちんと掲載したのである(参考:「的を得る」と「的を射る」)。
辞書に載せるということは、辞書は鑑という観点から考えると「正しい言葉」として世間から認識される可能性が高い。まだ議論が紛糾している中でこうした決断をくだすことには、さぞ勇気が必要だったことだろう。実際に、改定作業の編集部内でも明確な結論を出せずにいたことを踏まえても、飯間の思いを押し通した形になったのだと思う。それくらい、一つ一つの言葉に対する思いがなくては、辞書編纂は務まらないのだろう。
こうした飯間の仕事ぶりはその著書『辞書を編む』でも明らかにされる。とくに街を歩きながらの新語を収集する「言葉ハンター」の狩猟ぶりは大変に印象深く、読むものに新鮮な驚きをもたらす。本書はもちろん、映画もヒットした『舟を編む』にちなんだ書名となっており、辞書改定の実務をかいまみることができる、希少でエキサイティングな一冊だとおすすめしたい。
そして、それよりも、もっとおすすめしたいのがこの『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』だ。先に書いたように、三省堂国語辞典の初代編纂者にして辞書の神様とうたわれたケンボー先生こと見坊豪紀。彼が当時どのような考えで三省堂国語辞典を新しく立ち上げようとしていたのか、そしてその結果何が起こったのか・・・。「国語辞典業界最大の謎がいま明らかにされる」でも紹介したとおり、本書は実際に起こった、小説よりも希な、実に美しいミステリーなのである。ネタバレはできないので、ぜひご自身で読んでみて、その最大の謎を理解して頂きたい。
最後に、国語辞典はなにも三省堂だけじゃない、ということを強く言っておきたい。というよりも、辞書はそれぞれ個性がある、というのが重要な点であり、そうしたメッセージを力強く発信しているのが、お笑い芸人サンキュータツオによる実にまじめな一冊『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方」である。これも「学校で教えて欲しいおすすめ国語辞典の選び方・使い方・遊び方:複数の辞書を比較して使い分けよう」で紹介した一冊だが、とっても素敵な内容なので、辞書を選ぶ際にはもちろんのこと、国語辞典についてもっと詳しくなりたいときにはぜひ手に取って頂きたい。辞書ってこんなに個性的で面白いものだったのか、が分かる優れた一冊なのである。
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