スポーツの統計学|データ・サイエンティストたちのゲーム分析
スポーツ界に広がるデータ革命
これまで何度か書いてきたように、スポーツとデータというのはとても相性がよい。もちろんその相性のよさは、どのスポーツを対象とするのかで大きく変わってくるのだが、ゲーム分析と勝利のためのプランニングにデータが欠かせないものとなっているのは、いまやどのスポーツにも言えることだ。この機会に各スポーツのデータ分析をまとめておきたい。
野球/ベースボール
まずは何と言っても、メジャーリーグのデータ分析が有名だろう。「ベースボールの統計学」にも書いた通り、その流れを決定づけたのがマイケル・ルイスの名著『マネー・ボール』だ。ブラッド・ピット主演で映画化もされたのでご存知の方も多いだろうが、Kindle版なら今ならセール中なので、未読の方はぜひこの機会に読んでほしい。データの見方・使い方で、球団経営そのものが大きく変わった米国メジャーリーグのトレンドがよく分かる傑作だ。
そして近年では日本のプロ野球にもデータ分析・活用の動きが広がった。セイバーメトリクスという言葉がより一般的になり、関連書の出版も相次いだ。その中でもデータスタジアムという会社は、この分野の先駆けとして圧倒的なデータを蓄積し、突出したポジションを獲得している。今年のプロ野球は先日の日本シリーズで幕を閉じたが、来年は高橋由伸を含め新たな監督の誕生でどんなシーズンを迎えるのか、データとともに楽しみにしようではないか。
サッカー/フットボール
続いて注目したいのはサッカーだ。「フットボールの統計学」にも書いた通りだが、1つ1つのアクションが数値化しやすい野球と異なり、サッカーの動きはダイナミックでありデータに落とし込みずらい。パスといってもグラウンダーのショートパスなのか、前方へ大きく蹴りだしたロングパスなのか。ゴールの際にも、キーパーの手を弾いて右上に決まったのか、キーパーが一歩も動けずに左下に決めたのか、これらをデータ化するのが大変に難しいことは想像に難くないだろう。
だから、野球と比べて大きく後れていてたデータ・サッカーだったのだが、近年の英国プレミア・リーグでのデータ活用に始まり、前回ワールドカップで圧倒的な強さで優勝したドイツまで、いまやサッカー界ではデータ分析が必要不可欠とまでなってきた。
- 英国プレミア・リーグと、リバプールのData-driven football
- ワールドカップの閉幕、そしてデータドリブン・サッカーの開幕
- ゲーム理論とサッカーW杯そしてPK戦:なぜネイマールは右へ蹴ったのか?
そんな近年のサッカーとデータの関係を知るなら、この『サッカーデータ革命』がベストの一冊。「サッカー・データ革命の時代に読んでおくべきこの5冊」の中でも紹介した良書で、サッカーの試合を見る新たな視点を与えてくれる。こちらも現在Kindle版が絶賛セール中だ。
テニス
続いてはテニスだ。「錦織圭のグランドスラムを Slam Tracker でデータ観戦しよう」で紹介したように、今やテニスの試合観戦に、IBMが開発した Slam Tracker は欠かせないツールとなっている。間違いなくこれでテニスの見方が変わるし、面白さがぐっと増した。来年の錦織のさらなる活躍を期待しつつ、テニス四大大会はぜひともデータ観戦をしようではないか。
バレーボール
そして、バレーボールにもデータ分析/活用の動きがあるというのは、「戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術」で書いた通り。イタリアが先行したバレーボールのデータ分析だが、いまは全日本にも渡辺啓太というデータ・アナリストがおり、その戦略・戦術を裏で支えている。という話を本書『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』で知ったのだが、大変刺激的に面白く読んだ一冊だった。
ゴルフ
さらにはゴルフにもデータ革命の波が。こちらも現在Kindle版が大幅セールとなっている『ゴルフ データ革命』は、コロンビア大学ビジネススクール教授 Mark Broadie による一冊。専門の数量ファイナンスをゴルフのスコア分析に応用した新指標がゴルフ界で注目され、これまでの勘と経験と格言とは異なるゴルフの実際をデータで見せつける。ゴルフをする人はもちろん、しない人も間違いなく楽しめる一冊だ。データ好きならぜひ。
これはゴルフの「マネー・ボール」だ!ゴルフは、野球やサッカーに比べてデータ分析の分野で一歩も二歩も遅れており、「ドライバーショットは見せるため、パットは稼ぐため」といった昔ながらの格言が信じられているが、実際にスコアを分析してみるとパッティングがロングゲームより大事だというのは誤りであることがわかった。ゲームやプレーの数量的分析が可能になれば、「周回遅れ」のゴルフ界にも変革がもたらされるだろう。
スポーツもろもろ
アメリカのビジネススクール教授というのは、とくにファイナンスの専門家というのは、スポーツ好きなのだろうか?と思ってしまうように、本書はシカゴ大学ビジネススクール教授の Tobias Moskowitz 等による一冊。メジャーリーグやゴルフにサッカーと、多種多様なスポーツの舞台裏を、データをもとに見せてくれる本書も、スポーツ好き、データ好きなら読んでおきたい一冊だ。おすすめです。
なぜ、勝てる試合を捨てようとするのか?なぜ、審判は地元に有利な笛を吹くのか?なぜ、タイガー・ウッズもパットを外すのか?カウントで微妙に動くストライクゾーン、過大評価されるドラフト1位、真っ赤なウソをつく統計データ、はたしてファンは敵か、味方か?勝敗のホントの鍵を握っているのは誰だ?…スポーツは、行動経済学のネタの宝庫だ。
スポーツの経済学
「スポーツの統計学」だけでなく、もちろん「スポーツの経済学」も存在する。とくにアメリカの学部生向けには、”Economics of Sports” なるものが開講されていることが多く、僕も留学時代その授業のティーチング・アシスタントをやってみたことがあるのだ。教科書は “The Economics of Sports” 他いくつかの定番書があるほどで、しかもどれも真面目に書かれている。
球団の利潤最大化に始まり、独占と禁止法、労働(移籍)市場と組合、契約と報酬の制度から、選手に対する差別の問題まで、応用ミクロ経済学のテキストとして、スポーツファンなら間違いなく面白く読めるトピックばかりなのだ。原著は最新第5版が出版されており、旧版の第4版は2012年に日本語に翻訳されている。スポーツの秋にこそ、ぜひスポーツの統計学と経済学も味わってみては?
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